そして「さの字と呼ぶことにする!」と宣言したよ。
名前の最初の一文字をとった、さの字。中岡慎太郎が『慎の字』と呼ばれるようなものだがずいぶん間抜けな語感だった。
そう、オクサマは間抜けな語感が、好きだ。僕が大きな毛むくじゃらの犬を歩くさまを『もふもふ』と表現したら、しばらく犬を見るたびに『もふもふ、もふもふ』とつぶやいていたこともある。
僕が、名前や名前を変形させたいくつかの候補の中もあったのにこれを選んだということは、もはや外で呼んでも恥ずかしくないとかどうでも良くなっているんだろう?と聞くと「えへへ、オクサマかわいいだろー?」と笑ってごまかされた。
そして早速オクサマは僕を「さの字」と呼ぶ。「さの字、さの字」と繰り返して呼んだりもした。
そして3日たった頃、どんどん崩れはじめた。
「さのー」「三文字ー」「佐野ー」「佐野っちー」
もはや誰だかわからない。